介護の腰痛がつらくて「もう辞めたい」と感じたとき、最優先は自分の体を守ることです。そのうえで、判断の材料を整理します。
- 症状が重く仕事の継続が難しい状態であれば、腰痛は休職・退職の理由として十分に成り立ちます
- 一方で、退職の前に休職・配置転換・介護保険サービスの利用・労災申請など、検討できる選択肢が複数あります
- どの選択をするにしても、まず医療機関を受診して状態を確認しておくことが判断の土台になります
- 受診には「原因が明確になる」「治療と指導が受けられる」「腰痛発症の証明になる」という3つのメリットがあります
- 足のしびれや脱力、排尿排便の異常などがある場合は、我慢せず早めに受診してください

介護の腰痛は退職理由として認められるのか
症状が重く、仕事を続けることが困難な状態であれば、腰痛は休職・退職の理由として十分に成り立ちます。
腰痛は軽いものから重度のものまで程度が様々で、その原因も多様です。症状が軽く、進行がなければ仕事を継続することも可能でしょう。実際に、腰痛を我慢しながら、あるいは通院しながら仕事を継続している人も多くいます。
しかし症状が重ければ、仕事を続けるのが困難になることもあります。現在はなんとか仕事ができていても、症状が進行しているのであれば、続けていくことに不安を感じるのは自然なことです。
さらに、腰痛のみならず、排泄障害や感覚障害、足のしびれ、感覚が鈍いといった麻痺症状が出現しているような状態は、通常の腰痛とは違います。生活そのものが厳しくなるほどの状態の方もいますし、入院・手術や数か月の休養が必要になることもあります。動けないほどの腰痛であれば、基本的には休職や退職は認められる形になるでしょう。
大切なのは、「辞めるか、我慢して続けるか」の二択で考えないことです。本当につらい場合は我慢を続けず、まず体を守る方向で選択肢を並べてみてください。
「辞めたい」と思ったときに、退職の前に検討できる選択肢
退職は選択肢の一つであり、その前に休職・配置転換・サービス利用・労災など、体を守りながら仕事を続ける方法も検討できます。
どれが正解ということはありません。生活状況も体の状態も人によって違うので、選択肢を知ったうえで自分の条件に照らして判断していただければと思います。
選択肢① 休職して治療にあてる
手術が必要な状態であれば、入院および術後の療養期間を休業するという方法があります。
退職ではなく休職という形をとることで、雇用を維持したまま治療に専念できる場合があります。退職までいかずとも休職という形を選ぶ人は、実際に相当な割合でいます。まずは職場に、いまの体の状態と続けられる業務量を率直に相談してみることから始めるのがよいでしょう。
選択肢② 配置転換・部署異動を相談する
介護系の仕事の場合、やや身体的負担の少ない部署への異動が、よい結果になることがあります。
たとえば同系列のデイサービスへの異動などです。理学療法士イワモトの周囲には、手術が必要になるほど腰の状態が悪化した人が多くいますが、退職せずに仕事を継続されている方もいます。状態が悪いときには歩行障害もあって、同じ仕事に復帰して大丈夫だろうかと心配になることもありましたが、ほぼ同じ仕事に復帰されている方もいるのが実際です。
「辞めるしかない」と思う前に、負担の少ない業務や部署がないかを職場に相談してみる価値はあります。
選択肢③ 家族の介護が原因なら、介護保険サービスの利用を検討する
自宅で家族を介護していて腰痛が悪化しているなら、介護保険サービスの利用を積極的に検討してください。
体調不良のときは無理をせず、ショートステイなどを利用するとよいでしょう。腰の状態が改善するまで施設入所を利用するという方法もあります。一人で抱え込まず、地域の支援センターで相談するなど、社会の支援を受けることも大切です。助けてくれる人をつくっておくことも、現実的な対策になります。
介護の職場では助けを求めにくい場合もあるかもしれませんが、できるだけ良好な関係を構築して、協力を得られるようにしておくとよいと思います。
選択肢④ 労災に該当しないかを確認する
介護職の場合、業務が原因で腰痛や椎間板ヘルニアなどが生じたときは、労働災害に認定できる場合があります。
仕事中に強い腰痛を発症した場合などは、そのときの状況を詳しく記録しておき、医師にも伝えておくことが重要になります。詳しくは後述します。

退職したくても、退職しにくい場合もある
腰痛がつらくても、生活面や職場の事情で退職に踏み切れないケースがあります。
退職したら生活が成り立たなくなるパターン
これは非常に切実な問題です。
家計を支えている人が退職してしまえば、収入減によって生活が成り立たなくなる場合があります。ローンの返済などがあれば、問題はさらに大きくなります。このような状況であれば、腰痛がひどくても仕事を辞められない大きな理由になります。だからこそ、退職か継続かの二択ではなく、休職・配置転換・傷病時の制度の利用といった中間の選択肢を先に検討する意味があります。
職場の人員不足で退職を認めてもらえないパターン
介護職の現場は、その多くが人手不足です。
誰かが病気で休んだら、休日の職員が呼び出されることも珍しくありません。これ以上スタッフが退職したら施設の基準を満たさなくなる、という現状もあります。こうした職場では、簡単に退職を認めてもらえない場合もあるでしょう。一方で、現場に人手不足感があっても、経営側が人件費を抑えたいと考えている場合などでは、すんなり退職できることもあります。
なお、退職届を出せば、最終的に誰かがそれを止められるものではありません。ただ、職場との関係や引き継ぎを考えると、まずは体の状態を伝えて相談するところから始めるのが現実的です。

退職を選ぶ前に知っておきたいデメリット
退職は腰痛から離れる有効な手段になり得ますが、待遇面のデメリットが生じる可能性もあります。
一度退職してしまうと、再就職が難しかったり、退職前と同じ条件で働けなかったりすることがあります。厚生年金の積み立てや退職金の問題もあります。
痛みが強くなると、精神的にも落ち込みやすくなり、退職の方向へ気持ちが傾くことがあるかもしれません。それ自体は自然なことですが、収入減をどうクリアしていくかなど、退職によるデメリットについては一度落ち着いて、客観的に見ておく必要があります。
腰痛で退職した場合、しばらくは入院や自宅療養となるでしょう。しかし、いつまでも療養というわけにはいかず、腰の状態が改善すれば再就職を考えることになります。介護系の仕事は求人が多いので、改善後の再就職はそれほど難しくないかもしれません。ただ一般的には、長く勤めていた職場と同じ待遇での再就職は難しいと言えます。希望の職場が見つからないときは、定期的なハローワーク通いと毎月の就職活動が必要になります(失業給付を受給する場合)。
こうしたデメリットがあるからといって、無理をして働き続けることを勧めるものではありません。体の状態が限界に近いのであれば、離れる判断も当然に尊重されるべきものです。判断材料として知っておいてほしい、という趣旨で整理しています。
なお、仕事を続けたいという希望があるのなら、「どうしたら腰痛を改善できるか、どうしたら腰痛にならずに済むか」に意識を向けることが現実的な近道になります。
介護で腰痛になったら病院に行くべき?受診したほうがよい3つの理由
結論として、病院へは行ったほうがよいと考えます。理由は3つあります。

理由① 腰痛の原因がより明確になるから
腰痛の原因は特定できないことも多いのですが、腰部脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニアなどは、検査をすることで分かります。
診断を受けることで、病状に合った処置(治療・対策)を行うことができます。原因が分からないまま自己流の対策を続けるより、まず状態を確認するほうが遠回りになりません。
理由② 適切な治療や指導を受けることができるから
腰部に疾患があれば、それに対する治療を行えますし、加えて腰痛の改善・予防の指導を受けることができます。
介護時の動作に原因がありそうであれば、リハビリなどで動作(介助技術)の指導を受けられます。自己流で身についた介助動作を、専門家に見てもらう機会にもなります。
理由③ 腰痛発症の証明となるから
これは常に必要になるものではありませんが、腰痛によって働けない、退職するという状況になったときに力を発揮します。
たとえば自宅で老老介護を行っている場合、介護者の腰痛が強く介護に困難を生じているようなときです。介護者の腰痛が医師によって診断されていれば、要介護者の施設入所が行いやすくなる可能性があり、自宅での介護が困難であることを伝える手段になります。
また介護職の場合、業務が原因で腰痛や椎間板ヘルニアなどが生じたときは、労働災害に認定できる場合があります。仕事中に強い腰痛を発症した場合などは、状況を詳しく記録しておき、医師にも伝えておくことが重要です。
このように、介護で腰痛になった場合に病院を受診するメリットは多くあります。まずは受診しておくのがよいでしょう。受診先に迷う場合は腰痛は何科を受診すべきかを参考にしてください。
すぐ病院に行くべき危険なサイン
次のような症状があるときは、様子を見ずに早めに医療機関を受診してください。
- 足のしびれや脱力がある、力が入りにくい、つまずきやすくなった
- 排尿・排便の異常(出にくい、漏れる、感覚が鈍い)がある
- 横になって安静にしていても痛みが続く、夜間に痛みで目が覚める
- 発熱を伴う腰の痛みがある
- 転倒や外傷のあとに強い腰の痛みが出た
これらは、通常の腰痛とは異なる原因が隠れている可能性を示すサインです。特に排尿・排便の異常や急速に進む脱力は、早めの対応が必要とされる症状です。介護の現場は忙しく「休みづらい」と感じる方も多いと思いますが、こうした症状があるときは受診を優先してください。急に強い痛みが出たときの初期対応はぎっくり腰の応急処置も参考になります。

病院ではどのような治療が受けられるのか
病状によって治療法は異なりますが、病院で行われている主な療法は次の4つです。
① 薬物・投薬療法
痛みを抑えるための消炎鎮痛剤などによる治療が代表的です。
腰痛はストレスなどの精神的な問題が要因となっている場合もあるため、抗うつ薬などが処方されることもあります。痛みが強い場合には、痛みのある箇所に麻酔薬を直接注射するブロック療法が行われることもあります。ただし、投薬だけに頼り続けるのは望ましくありません。あくまでも一時的な方法として捉えていただきたいと思います。
② 運動療法など
医師の処方によってリハビリとして行われるものと、指導を受けて自主的に行うものがあります。
筋力増強訓練、ストレッチ、姿勢矯正、腰痛体操、動作法の指導など、腰痛予防のためのエクササイズを行います。根本的に腰痛に取り組むのであれば、運動療法に力を入れるべきだと考えています。そして「なぜ介護で腰が痛くなってしまったのか」という理由を探り、その原因を解決していくことが、介護での腰痛予防にもつながります。
③ 物理療法
ホットパック(温熱)や低周波刺激(電気)による治療が行われることもあります。
主に痛みの軽減を目的として行われるものです。ただし、これも根本的な解決に至るものではないという点は忘れないでいただきたいと思います。
④ 手術療法
腰痛に対しては基本的に①〜③のような治療を用いますが、重度の椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などがある場合は、手術による治療が選択されることもあります。
手術は最後の手段として考えていただきたいと思います。治療の最初から手術を選ぶ必要はないでしょう。

病院に行けば介護の腰痛は治るのか
病院に行けば多くの場合、痛みを軽減させることは期待できます。ただし、それだけで完結するものではありません。
鎮痛剤などで強い痛みを抑えることは可能ですが、この場合は「改善」ではなく「痛みが出ないように抑えている」状態と考えてください。本来の原因の部分については、自己対策も必要になります。
医師が行う手術以外の治療は、基本的に自己管理が重要になります。リハビリの担当者が行うのは、自己管理に対するアシストであり、あくまでも補助です。だからこそ、病院で治療が完結するものではなく、治療は予防を兼ねて続いていくものだと考えていただきたいと思います。
特に自宅介護や介護の仕事をしている場合は、通常よりも腰痛を発症しやすい状況にあります。自分自身が腰痛に対する知識を持ち、予防の対策を行っていくことが大切です。具体的な予防法と介助動作のコツは介護の腰痛の原因と対策で詳しく解説しています。

病院以外の治療施設はどうなのか
腰痛の治療は病院だけではありません。痛みを軽くする目的で他の施設を選択することもあります。
基本的には病院を受診するのがよいですが、病院がすべてではないとも言えます。整体、整骨院、マッサージ、鍼灸などで腰痛に対する施術を行っているところは数多くあります。介護で腰痛になった方が整体に通っているという話を聞くこともあります。
腰痛の痛みの軽減には、人それぞれ合う・合わないがあります。Aさんには整体の施術が効果的で、Bさんにはマッサージや鍼が効果的だった、ということがあるわけです。どの方法が確実に有効かということは言えませんが、自分自身に適していれば効果を得られる可能性はあるでしょう。医師は鎮痛薬を処方でき、医療行為を行えるという点が大きな違いになります。
整体・接骨院・マッサージ・鍼灸の違い
同じ分類の施設でも、根拠となる法律や資格、施術の考え方が異なります。
整体<br>日本ではカイロプラクティックなどが代表例です。脊椎の矯正や姿勢のゆがみへのアプローチを行っていることが多いようです。このジャンルに決まった国家資格はありません。民間資格を持って開業している場合もありますが、無資格でも行うことのできるジャンルです。名称からは知識や技術の水準が分からないという点は理解しておくとよいでしょう。
接骨院(整骨院)<br>柔道整復師という国家資格の保持者が施術を行っていることがほとんどです。打撲、捻挫、脱臼、骨折などに対して施術を行います。
マッサージ<br>あん摩マッサージ指圧師という国家資格を持った人が施術を行います。マッサージという言葉は広く使われていますが、治療を目的として独立してマッサージを行えるのは、医師とあん摩マッサージ指圧師などの資格を持つ人のみです。街で見かける低価格のマッサージ店はリラクゼーションを目的としており、医療行為ではありません。この違いを理解しておくことは重要です。
鍼灸<br>鍼灸を行っている施術所は、鍼師および灸師という2つの国家資格を持って施術が行われています。鍼や灸による刺激を利用して、痛みを抑制するなどの施術を行います。
労災保険の申請という選択肢
介護業務での腰痛の発症は多いものの、労災認定に至っているケースは多くありません。以下は理学療法士イワモトの考えです。
そもそも労災の申請自体が少ないという事情もあるでしょう。労災の認定を受けるには仕事と腰痛の関連性を証明しなければならず、その時点で申請のモチベーションが下がってしまうかもしれません。手続きが面倒である、職場に迷惑をかけてしまうのではないか、といった心配から申請を断念することもあると思います。さらに、職場での事故以外では労災が認められにくい現状があることも事実です。
それでも、過酷な労働条件や環境の不備などがあれば、認められる可能性はあります。ですので、労働条件や環境についても医師に伝えておくことが重要です。介護職の腰痛の発生率は高く、それが原因での離職もあるわけですから、介護によって発症した腰痛に対して、労働者はもっと補償されてよいと思っています。
退職を考える段階になったときのためにも、いつ・どの場面で腰痛が出たのかを記録しておくことをおすすめします。

よくある質問
Q. 腰痛で退職を申し出たら、職場に止められました。辞められないのでしょうか?
人手不足の職場では、退職を簡単には認めてもらえない場合があります。ただ、退職届を出せば最終的に止められるものではありません。まずは診断を受けたうえで体の状態を職場に伝え、休職や負担の少ない部署への異動といった選択肢も含めて相談してみてください。体を守ることが最優先です。
Q. 病院に行っても湿布と痛み止めだけで、治る気がしません。行く意味はありますか?
意味はあると考えます。受診には、脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアなどの原因を検査で確認できること、リハビリで動作や予防の指導を受けられること、そして腰痛が起きたことの証明を残せること、という3つのメリットがあります。特に3つ目は、労災の申請や施設入所の相談、退職・休職の判断のときに意味を持ちます。
Q. 退職せずに介護の仕事を続けたい場合、何をすればよいですか?
まず受診して状態を確認し、そのうえで負担を減らす工夫を並行して進めるのが現実的です。職場に業務内容や部署の相談をする、家族介護であれば介護保険サービスを利用する、介助動作や環境を見直すといった方法があります。
まとめ
- 症状が重く仕事の継続が難しい状態であれば、腰痛は休職・退職の理由として十分に成り立ちます
- 退職の前に、休職・配置転換・介護保険サービスの利用・労災申請といった選択肢も検討できます
- 一方で、生活を支えている、職場が人手不足といった事情で退職しにくいケースもあります
- 退職には待遇面のデメリットが生じる可能性もあるため、判断材料として知っておくと選びやすくなります
- 病院を受診するメリットは「原因が明確になる」「治療と指導が受けられる」「腰痛発症の証明になる」の3つです
- 病院での治療は薬物・運動・物理・手術の4つが中心で、根本的に取り組むなら運動療法が軸になります
- 痛みの軽減を目的に病院以外の施設を選ぶこともできますが、資格や法的な位置づけが異なる点は理解しておきましょう
- 足のしびれや脱力、排尿排便の異常、安静時も続く痛み、発熱、転倒後の痛みがあるときは、我慢せず早めに受診してください
- どの道を選ぶにしても、体を守ることが最優先です
※この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療を行うものではありません。症状が続く場合や不安がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
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