脊柱管狭窄症の手術を考えるとき、費用と術後の状態は誰もが気になるところだと思います。まず結論からまとめます。
- 手術は大きく「除圧術」と「固定術(除圧固定術)」に分かれます
- 従来から実施されている一般的な手術の場合、手術費・入院費・食費などを含めて約40万円程度が目安で、通常は医療保険が使えます
- 高額療養費制度を利用すれば、1カ月の自己負担を一定額以下に抑えられます
- 手術は神経の通り道を広げる方法であり、傷んだ神経そのものを元に戻す方法ではありません
- そのため、術後に痛みやしびれが残る場合や、歩行の状態が変わらない場合があります
- 手術が必要かどうか、行うとすればどの時期かは、医師が診察と検査をもとに判断します

脊柱管狭窄症の手術が検討されるのはどんなときか

保存療法で症状が改善せず、神経の症状が進行している場合に、手術が選択肢として検討されます。
保存療法を試したうえで検討するのが一般的な流れ
脊柱管狭窄症の治療の考え方は、手術(観血的方法)と保存療法(手術をしない方法)の二つに分かれます。症状が軽い段階では、まずリハビリ・内服薬・ブロック注射などの保存療法で改善するかをみて、それでも効果が不十分な場合に手術を検討する、という流れが一般的です。日本整形外科学会監修『腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2021』でも、保存療法は治療の選択肢の一つとして位置づけられています。
保存療法の具体的な内容は脊柱管狭窄症を手術しないで改善する記事にまとめていますので、あわせて検討する材料にしてください。
神経症状が進行している場合

脊柱管狭窄症の症状が進行すると、排尿障害(尿が出ない、漏れるなど)や排便障害、麻痺による筋力低下を生じる場合があります。麻痺が進行すれば歩行障害なども出現し、日常生活に大きな支障をきたすことになります。
このような症状が出現した場合は、神経へのダメージを最小限で食い止めるために、手術が考慮される段階といえます。
また、脊柱管狭窄症が重くなり、長距離を歩けなくなったり日常生活の動作が行いにくくなったりしている場合にも、手術が検討されることがあります。
一方で、手術をせずに麻痺が進行するリスクを取るのか、手術をして麻痺の進行を抑えるのか、という両面を考える必要があります。どちらを選ぶかは、症状の程度や画像所見、他の持病なども含めて医師が判断するものです。リスクについて十分に説明を受けたうえで、納得して決めることがポイントになります。
脊柱管狭窄症の手術の種類は除圧術と固定術の2つ

脊柱管狭窄症の手術は、大きく分けて除圧術と固定術(除圧固定術)に分けられます。

除圧術とはどんな手術か
除圧術は、脊柱の狭くなっている部分の椎骨(ついこつ)、靭帯、椎間板を削り取って脊柱管を拡大し、神経への圧迫を取り除く方法です。椎骨の背中側にある椎弓(ついきゅう)や、真ん中の飛び出した突起である棘突起(きょくとっき)などを削ったり切り取ったりするのが主な内容になります。
代表的なものとして、次のような術式があります。
- 椎弓(ついきゅう)切除術
- 開窓(かいそう)術
- 脊柱管拡大術
開窓術は椎弓の一部を切り取る方法で、症状が比較的軽い場合に用いられます。
また、内視鏡を用いて椎弓を切除する内視鏡下椎弓切除術と、内視鏡を用いない従来法があります。内視鏡を用いる場合、入院期間は短く、およそ1週間程度です。
固定術(除圧固定術)とはどんな手術か
狭窄している部分に不安定性がある場合は、狭窄の原因部分を削り取った後に脊柱を固定します。腰椎すべり症などを伴っている場合、この方法が採用されやすくなります。
まず除圧術を行い、不安定になった脊柱を安定化させるために、自分の腸骨(ちょうこつ)から切り取った骨などを移植します。その後、金具(スクリュー、ロッド)を用いて削り取った部分を挟み込むように固定します。つまり、背骨の一部に金具が挿入されている状態になります。
近年では内視鏡を用いて行うことができるようになり、傷が少なく、入院期間も2週間程度と短くなってきています。
入院期間は固定術のほうが長くなりやすく、コルセットの装着期間も長めとなります。
採用される術式は病院(医師)や症状によって変わります。実際に手術を受ける場合は、その病院で採用している術式について納得いくまで説明を聞くとよいでしょう。
脊柱管狭窄症の手術費用の目安

従来から実施されている一般的な手術の場合、手術費・入院費・食費などを含めて約40万円程度が目安になります。

医療保険が使えるので自己負担は1〜3割
特別な手術以外の場合は医療保険が利用できますので、約40万円の1〜3割負担と考えてください。医療費が高額になる場合は、高額療養費制度も利用できます。
除圧術と固定術の診療報酬点数の違い
除圧術と固定術では手術料金に違いがあります。参考として、診療報酬点数を挙げておきます(1点を10円として計算しています)。
除圧術(椎弓切除)1カ所の場合
- 13,310点=133,100円
- 1割負担:13,310円
- 2割負担:26,620円
- 3割負担:39,930円
固定術(後方椎体固定)の場合
- 41,160点=411,600円
- 1割負担:41,160円
- 2割負担:82,320円
- 3割負担:123,480円
除圧術については、2カ所目以降は1カ所につき13,310点の0.5倍が加算されます(上限は4カ所までです)。
あくまで参考としてご覧ください。入院日数や細かいオプションによって、金額は変わってきます。
純粋な手術料金だけで20万円程度の違いがあり、入院期間の違いもあるため、固定術のほうが費用は高額になります。
高額療養費制度で1カ月の負担を抑えられる
高額療養費制度を利用すると、1カ月にかかる費用を一定額以下にすることができます。所得などによって異なりますが、負担額は8〜9万円(食費、差額ベッド代金を除く)となります。
固定術の費用が高いと言っても、高額療養費制度を利用すれば、結果的に除圧術とそれほど変わらなくなります。
なお、手術費が高額で入院費用が高くなる場合、手術と入院が月をまたぐと不利になるので、できるだけ1日から月末の間でおさめられるとよいでしょう。
入院する前に「限度額適用認定証」の交付を受けて医療機関へ提出すれば、病院窓口での支払いを上限額でおさえることができます。この手続きを行わない場合は、いったん入院費を全額支払う必要があります(後日申請することで高額療養費制度を利用できますが、申請から支給まで3カ月程度かかります)。
医療費控除も使える

医療費控除は、実際に支払った医療費の額が10万円を超える場合、申告することで所得控除を受けることができる制度です(最高額200万円)。自分の分だけでなく、生計をともにする家族の分も合計して申告できます。
平成29年分以降は、医療費の領収書から「医療費控除の明細書」を作成して確定申告書に添付する必要があります。医療保険者から送られてくる医療費通知を添付すれば、明細の記入を省略できます。領収書は提出不要ですが、5年間の保存は必要です。
脊柱管狭窄症の手術のメリット・デメリット

除圧術と固定術には、それぞれメリットとデメリットがあります。

除圧術のメリット・デメリット
メリット
- 多くの病院(医師)によって実施されてきている(実績が多い)
- メジャーな方法なので病院探しに苦労しない
- リスクが比較的に少ない
- 内視鏡を用いた低侵襲(しんしゅう…生体を傷つけること)の方法がある
- 入院期間が短い
- 固定術と比較して費用が少なくて済む
- 手術部位の傷が小さい
デメリット
- 脊柱が不安定になることがある
- 内視鏡によるものは訓練を受けた一部の医師によって行われているため、病院を選ぶ必要がある
- 手術のリスクなど一般的なデメリットがある
固定術のメリット・デメリット
メリット
- 脊柱の不安定さが改善される
- 除圧のみに比較して神経障害の改善効果が高い
デメリット
- 手術による侵襲が大きくなる(結果的に、傷やリスクが大きくなる)
- 費用がやや高くなる
- 入院期間が長くなる
- 固定による副作用を生じることがある
- 長期間コルセットを装着する必要がある
- その他、一般的な手術によるリスクがある
どちらがよいかは自分では決められない
「どちらの手術のほうが良いのか」と思われるかもしれませんが、適している手術は症状や不安定性の有無によって違ってくるため、一律の答えを述べることはできません。最終的には、担当医・執刀医の説明を受けたうえで判断することになります。
そのうえで大切なのは、手術を本当にしたほうがよいのかどうかを、ご自身でも考えて納得しておくことです。手術をした後でも痛みが残っている方がいるのも事実ですので、メリット・デメリットの両方を踏まえて検討していただければと思います。
脊柱管狭窄症の手術のリスク

脊柱管狭窄症の手術は比較的リスクの少ない部類に入りますが、リスクがゼロというわけではありません。

一般的な手術に伴うリスク
すべての手術について言えることですが、身体に侵襲(生体を傷つけること)を加えますので、感染の危険、出血、傷が残るなどが生じます。もともと別の病気がある場合は、さらにリスクが増すこともあります。
脊柱管狭窄症の手術では内視鏡などが用いられるようになったため、従来よりもリスクは減ってきていますが、まれに神経の症状(麻痺など)が強くなることもあります。
症状が100%消える保証はない
痛みやしびれが100%消える保証はありません。手術をすることで大きな症状は軽減し、症状の進行も抑制されやすくなりますが、完全に症状が消失することはそれほど多くない場合もあります。
臨床の現場では、手術後に下肢のしびれが残っている方は比較的多い印象があります。痛みやしびれが強くなったという例は少ないものの、しびれが少し残っているという方はいらっしゃいます。長期にわたって患っていた方ほど、神経への圧迫が長く続いていたために症状が残りやすく、これは医師が完璧な手術を行っても避けられないことです。
名医でも結果を保証することはできない
脊椎手術の名医と呼ばれる医師もいます。内視鏡を使った手術などでは専門的な研修の修了や一定以上の経験が必要となり、高い技術を持った医師は難しい手術をミスなく行うこともできます。
しかし、それでも症状を100%必ず改善できるわけではありません。神経へのダメージが大きい場合は、医師の技術をもってしても回復させることが難しいことがあります。手術が上手にできたとしても、術後に残る症状が変わらない可能性はゼロではない、という点は頭の片隅に置いておいていただきたいと思います。
脊柱管狭窄症の手術後に痛みやしびれが残るのはなぜか
手術は神経の通り道を広げる方法であって、すでに傷ついた神経そのものを元に戻す方法ではないからです。
神経そのものがダメージを受けている場合
脊柱管狭窄症は、神経の通り道(脊柱管)が狭くなり、神経が圧迫されることで痛みやしびれを感じるようになる状態です。手術は、この狭くなった神経の通り道を広げ、圧迫をなくす方法です。
しかし、神経への圧迫が長期間にわたって過度になると、神経そのものが傷ついてしまいます。その結果、手術で神経の通り道が広がったとしても、神経そのものに影響が残っているために痛みやしびれが変わらない、ということが起こり得ます。
神経は短時間の圧迫であれば回復します。たとえば長時間正座をすると足がしびれますが、しばらくすると回復します。しかし、この圧迫が長期間続くと、手術をしても回復が困難なほどになってしまうことがあるのです。
手術の目的は「悪化を食い止めること」でもある
脊柱管狭窄症の手術の目的は、症状の悪化を食い止めることにある場合も多くあります。これ以上放置したら歩行ができなくなる、排泄の障害が重度化するなど、重度の障害を回避するために行うという意味合いです。そう考えると、術後に症状が変わらない(悪化していない)ということは、手術としては目的を果たしているという見方もできます。
とはいえ、手術をするなら症状が改善する期待は誰しもがしたくなるものです。「手術をすれば必ず良くなる」と考えるよりも、痛みやしびれが残る可能性もあると理解したうえで臨むほうが、結果を受け止めやすくなるのではないかと思います。
痛みの感じ方には心理的な要因も関わる
術後に慢性の痛みやしびれを訴える方がいます。症状に慣れて日常生活ではあまり気にならないという方も多い一方で、気にしている方は常に症状を訴えます。
同じ症状であっても、人によって痛みの感じ方は異なります。痛みは脳の働きによって抑制されることがわかっており、日頃の精神的なストレスや性格の影響もあるでしょう。激しい痛みを無視することはできませんが、軽い痛みについては、症状に意識を向けすぎないことが楽に過ごすためのポイントになる場合があります。
脊柱管狭窄症の手術後に歩けないケースの3つの理由
術後に歩けない状態になる背景には、大まかに3つの理由があります。
理由1 手術前からすでに歩行困難があった
手術前に重度の歩行障害を生じていた場合は、すでに神経が不可逆的変性(永久に回復しない状態)を起こしていることがあります。このような場合は、手術で神経への圧迫を取り除いても、神経が回復しないために歩行の状態が改善しないことがあります。
理由2 手術直後から症状が悪化した
神経への圧迫を取り除く手術をミスなく行っても、神経へのダメージを生じることがあります(手術に使用する道具で神経を切ってしまうようなことはなくても、触るだけでもダメージを生じてしまうなど)。
これは手術前には予想できない要素も多い部分です。このようなことが起こった場合、術前よりも麻痺が悪化するなどして、歩行障害を生じることがあります。手術を受ける場合は、こうしたリスクがゼロではないことを理解しておく必要があります。
理由3 術後しばらくして再び悪化した
脊柱管狭窄症の手術は、1回行えば一生症状が悪化しないというものではなく、他の部位で同じような狭窄が進行していくこともあります。しばらく症状が改善していても、そのうちに神経への圧迫が始まれば、また症状が悪化し、歩行障害が生じることもあるのです。場合によっては、再手術が必要になることがあります。
また、手術では神経への圧迫を開放するために骨の一部を削り取るなどが行われるため、腰椎の安定性が低下してしまうことがあります。別の部位の骨まで削ることになると腰椎が非常に不安定になることもあり、その場合は金具(インプラント)を使って腰椎を固定する手術が必要になる場合もあります。
これら3つは、手術のミスが原因ではなく、避けることのできない理由によって起こるものです。
脊柱管狭窄症の手術後こそリハビリの継続が大切
手術で安心せず、術後もリハビリを続けて体をメンテナンスしていくことが、長期的に良好な状態を保つポイントになります。
術後の対策を行わないでいると、長期的には症状が再び出てくる方もいます。術後に生活を立て直していくうえで意識したいのは、次の3点です。
- 手術後もリハビリは継続していく
- 良い姿勢を意識する習慣を身につける
- 仕事量を調整し、がんばりすぎない
具体的な運動の手順は脊柱管狭窄症の運動の記事にまとめていますので、担当の医師や理学療法士に確認したうえで取り入れてみてください。脊柱管狭窄症の全体像を整理したい方は脊柱管狭窄症のまとめ記事もあわせてご覧ください。
すぐ病院に行くべき危険なサイン
手術の前後を問わず、次のような症状があるときは、自己判断で様子をみず、早めに医療機関を受診してください。
- 足のしびれや脱力が、日ごとに進行している
- 尿が出にくい、尿や便が漏れる、感覚が鈍いなど、排尿・排便の異常がある(馬尾症状の可能性があります)
- 安静にしていても痛みが続き、休んでも楽にならない
- 発熱を伴う腰の痛みがある(手術後の発熱や傷の腫れ・赤みを含みます)
- 転倒した後から痛みやしびれが出た、または急に強くなった
特に排尿・排便の障害は、神経の状態を早く確認する必要があるサインです。術後にこうした症状が出た場合も、次の受診を待たずに手術を受けた医療機関へ連絡してください。
よくある質問
Q. 脊柱管狭窄症の手術費用はいくらくらいかかりますか?
一般的な手術の場合、手術費・入院費・食費などを含めて約40万円程度が目安で、その1〜3割が自己負担となります。さらに高額療養費制度を利用すれば、所得などによって異なりますが、1カ月の負担額は8〜9万円(食費、差額ベッド代金を除く)程度に抑えられます。
Q. 脊柱管狭窄症の手術後、痛みやしびれは完全になくなりますか?
100%消える保証はありません。手術は神経の通り道を広げる方法であり、すでに傷ついた神経そのものを元に戻す方法ではないためです。大きな症状が軽減し進行が抑制されやすくなる一方で、しびれが少し残る方は比較的多い印象があります。
Q. 除圧術と固定術、どちらを選べばよいですか?
どちらが適しているかは狭窄の部位や脊柱の不安定性の有無によって変わるため、一律にお答えすることはできません。不安定性がある場合や腰椎すべり症などを伴う場合は固定術が採用されやすい、といった傾向はあります。採用される術式は病院や医師によっても変わりますので、説明を受けたうえで納得して決めてください。
まとめ
- 脊柱管狭窄症の手術は、除圧術と固定術(除圧固定術)に大きく分かれます
- 一般的な手術で約40万円程度が目安、自己負担は1〜3割、高額療養費制度で1カ月8〜9万円程度に抑えられます
- 固定術は費用も入院期間も長くなりやすい一方、脊柱の不安定さが改善されるという利点があります
- 手術は神経の通り道を広げる方法であり、痛みやしびれが残る場合があります
- 術後に歩けなくなるケースには、術前からの歩行障害・術直後の悪化・術後しばらくしての再悪化という3つの背景があります
- 術後もリハビリを継続し、良い姿勢と作業量の調整を意識することが大切です
- 手術の要否や時期は医師が判断します。保存療法で改善を目指す方法は脊柱管狭窄症を手術しないで改善する記事にまとめています
参考文献
- 日本整形外科学会監修『腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2021』
※この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療を行うものではありません。症状が続く場合や不安がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
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