脊柱管狭窄症は、手術をしなくてもリハビリで症状の緩和が期待できる人が多い、というのが理学療法士としての考えです。
リハビリは湿布や痛み止めのような「その場の痛みをしのぐ」対症療法とは違い、姿勢のくせ・筋力・柔軟性・歩き方などを評価して、神経が圧迫されている原因に合わせた対策を組み立てます。
そして最終的には、自分で症状をコントロールする「自己管理」の力を身につけることがリハビリのゴールです。
ただし、すべての人に同じように効くわけではなく、重度の場合は手術が必要になることもあります。手術の要否は医師の判断になりますので、その点は踏まえて読み進めてください。
この記事では、脊柱管狭窄症にリハビリがすすめられる理由、症状緩和を助ける5つの要素、腰に負担をかけない動作や歩き方、すぐに受診すべきサインをまとめました。
脊柱管狭窄症にリハビリがすすめられる3つの理由
脊柱管狭窄症にリハビリがすすめられるのは、「何もしなければ改善が期待できない」「対症療法と違って原因に目を向ける」「自己管理の力が身につく」という3つの理由があるからです。
日本整形外科学会監修『腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2021』でも、運動療法を含む保存療法は治療の選択肢の一つとされています。
理由①:何もしなければ改善は期待しにくい
脊柱管狭窄症は多くの場合、背骨や椎間板など背骨を構成する部分の変性・変形が原因で発症します。
加齢が大きな要因といわれますが、原因はさまざまです。
その中で当然のことではありますが、何の対策も行わずに同じ生活を続ければ、徐々に悪化して手術が必要になるまで進んでしまう可能性が高くなるでしょう。
逆に、適切な対策を行うことで改善する可能性は高くなります。
そのための行動として、リハビリが効果的だとお伝えしたいのです。
理由②:対症療法ではなく「原因」に目を向ける
腰が痛いとき、放置して安静にする、湿布を貼る、塗り薬を塗る、マッサージや整体を受ける、少し我慢してみる、といった方法をとる人は多いと思います。
これらは受動的(対症療法的)な方法で、一時的に痛みをしのぐ考え方です。
一時的に楽になることが、人によっては助けになる場合もあります。
しかし、神経が圧迫されている部分を考慮した対策を行わなければ、本当の意味での改善とはいいにくいと考えています。
リハビリは、日常的な悪い姿勢のくせ、筋力、柔軟性など多くの要因を評価して、原因を探り、解決方法を見つけ出す作業です。
必要に応じて適切な歩行方法や歩行補助具の選択など、生活までを含めてトータルにプログラムを実施し、症状が改善するまでサポートします。
理由③:自己管理の力が身につく
リハビリは一方通行では良くなることが少ないです。
身体機能の評価結果は患者さんにフィードバックし、その後の生活でどう対応していくべきかを説明します。
たとえば「姿勢を良くすることを意識しましょう」「筋トレやストレッチはどのタイミングで行うか」といった日常生活動作の指導です。
最終的に重要になるのは自己管理です。
症状や身体の状態を理解して、自分で悪化しないような工夫をしながらコントロールしていく必要があります。
これはダイエットと同じで、自分で自己管理を続けないとリバウンドしやすくなりますし、そもそも成功しにくいでしょう。
もちろん、自己管理だけでは症状を抑えきれなくなることもあります。
そのときは新しい治療を試し、その結果を自分で体験して、自分に合った方法を見つけていけたらよいと思います。
脊柱管狭窄症の症状緩和に運動がすすめられる理由
脊柱管狭窄症の症状緩和に運動がすすめられるのは、血流の改善、神経への圧迫の軽減、そして症状を出しにくい体づくりという3つの目的があるからです。

血流の改善
脊柱管狭窄症は、血流を改善することで症状の緩和が期待できます。
病院で処方される脊柱管狭窄症の薬にも、血管を拡張させて血流を改善させるものがあります。
動かずに同じ姿勢でいると血流は悪くなります。
運動することで、血流の改善が望めます。
神経への圧迫の軽減
神経にとって悪い姿勢でいると、神経そのものや神経に栄養を送る血管が圧迫されて、神経にダメージを与えてしまいます。
運動によって姿勢を改善し、神経への圧迫を減らすことが目的です。
症状を出しにくい体づくり
脊柱管狭窄症の原因は一つではありませんが、発症する前から対策をしておくことで、発症のリスクを減らせると考えられます。
偏った姿勢(横座り)や長時間同じ姿勢が続かないように注意し、腰に負担のかかる運動は避けて下肢の筋力を使う運動を行います。
体幹の筋力も重要なので、腹筋や背筋が衰えないように維持しておきましょう。
脊柱管狭窄症の症状緩和を助ける5つの要素
脊柱管狭窄症の症状緩和を助ける要素は「姿勢」「腹筋」「背筋」「柔軟性」「下肢の血流」の5つで、効果のある人もいれば変わらない人もいることを念頭に置いて取り組んでください。
ここでは各要素の「目的」を説明します。
具体的な種目と手順、楽な方向の見つけ方は脊柱管狭窄症の運動・ストレッチの記事にまとめているので、そちらを参照してください。

要素①:姿勢を整える
立ったとき・座ったときの姿勢の中心をつくるのは脊柱(背骨)です。
脊柱の中には神経が通っているので、脊柱の形によって内部の神経も影響を受けます。
脊柱管が狭くなっている場合、姿勢(曲がり具合など)によって神経が圧迫されることがあります。
ここでいう「姿勢を正す」とは、必ずしも理想的なまっすぐな姿勢にすることではありません。
すでに変形が生じている場合は、理想的な姿勢が良いとは限らないのです。
基本的な姿勢を理解したうえで、自分の中で最も症状の出にくい姿勢をとる、という理解をしてください。

要素②:腹筋を保つ
腹筋は体幹筋の一つで、姿勢を保ったり動作時に常に働いたりする重要な筋肉です。
起き上がりのときに大切で、弱くなると寝返りや起き上がりがしにくくなります。
重い物を持ち上げるときに腹圧を高める働きもあります。


要素③:背筋を保つ
腹筋と対になる背筋も、姿勢を保つうえで欠かせません。
腰上げなど安全で簡単に行える方法から始め、動作で痛みが出る場合は中止します。
要素④:柔軟性を保つ
柔軟性が保たれていると姿勢の改善効果があり、スムーズで余裕のある動作ができます。
神経障害があると筋の柔軟性が損なわれることも多いので、柔軟性を意識した運動が役立ちます。



要素⑤:下肢の血流を促す
筋肉の収縮・弛緩はポンプの働きをし、下肢の筋肉を動かすことで血流を良くすることができます。
太ももには大きな筋群があり「第二の心臓」とも呼ばれるので、下肢を使う運動が血流促進に向いています。
脊柱管狭窄症のリハビリで行う動作練習と歩行の工夫
脊柱管狭窄症のリハビリでは運動だけでなく、腰に負担をかけない動作と、自分に合った歩き方・補助具を身につけることも大切です。
腰を曲げず膝を使う動作
日常生活で腰への負担が大きくなれば、それだけ腰部の変性・変形にとって不利になります。
日頃から腰への負担が少ない動作を心がける必要があります。
主なポイントは、腰を曲げず膝を使った動作を行うことです。
荷物を持ち上げるときは、膝を落として体全体で持ち上げます。腰だけを曲げるのはNGで、膝を曲げて腰を下ろすことが大切です。

間欠性跛行への歩き方の工夫
上半身の重さの一部を腕で支えて腰への負担を減らし、腰を少し曲げて神経への圧迫を減らすことで、間欠性跛行(長く歩くと足が辛くなり、休むと歩ける症状)が改善することがあります。
最適な姿勢や使う補助具(杖や歩行器など)は人によって違うので、自分に合った方法を見つけ出す必要があります。
リハビリでは補助具の選定や高さの細かい調整も行い、歩きやすさや歩行距離の向上を目指します。
トリガーポイントと痛みの個人差
押すと痛い硬い部分(トリガーポイント)が慢性的な痛みの原因になっている場合は、その部分への治療で症状が緩和されることがあります。
トリガーポイントとは、ごく簡単に言うと「押すと痛いところ(コリコリと硬い部分・硬結)」です。
親指などで押すと痛かったり、押したところとは別の場所に痛みを生じたりします。
神経障害が起こると、このトリガーポイントを生じることがあります(姿勢が悪いなど、その他の理由もたくさんあります)。
ただし、背骨が変形して脊柱管狭窄症を生じている場合、トリガーポイントを治療しても骨の変形が治るわけではありません。
効果はあくまで痛みなどの症状の改善です。
流行の体操との付き合い方
「これだけ体操」「朝30秒の正座」「痛みナビ体操」「脱力蹴り出し体操」「骨盤カイロ」など、脊柱管狭窄症の治療法はさまざまなものが考案されています。
それぞれ効果のあるものだと考えられますが、どれか一つの方法がすべての人に同じように効くわけではありません。
先ほどの5つの要素を基本として、それ以外の方法を試してみるとよいでしょう。
自分に合ったものが見つかれば幸運ですし、最終的には取捨選択して継続していくことが大切です。
リハビリで症状が改善した例
リハビリで症状が改善した例は多くありますが、ここでは筆者が見聞きした例を参考として紹介します。
間欠性跛行が改善し歩行距離が伸びた70代男性(石井さん:仮名)
石井さんは、約4ヶ月前から長い距離を連続して歩けない症状を感じ始めていました。
なんとなく辛い、足を動かすのが面倒、動きづらい、という感覚です。
仕事をしておらず自宅での生活が主だったので、病院へも行かず放置していました。
しかしその後、歩くのが辛くなって外を歩くのがきついと感じるようになり、次第に外に行く気力もなくなってしまいました。
足を思うように動かせなくなり、動くのは自宅内だけになり、家族が説得して受診したところ脊柱管狭窄症と診断されました。
すぐに入院となりリハビリが開始されました。
歩行や運動を行っていなかったためか、下肢を中心に筋力低下と感覚の低下が認められました。
まずは腰の柔軟性のストレッチや筋トレを中心に行い、石井さんの場合は典型的に腰を曲げることで症状が軽減したので、軽く体を丸めた状態で歩く方法を考えました。
歩行器(歩行車)で上半身を支え、少し前かがみで歩く練習を行い、歩行距離は伸びていきました。
自宅での日常生活動作や歩行方法についても指導を行い、無事に自宅復帰が可能となりました。
退院後は補助具を使いながらではありますが、屋外歩行も可能な状態で生活ができるようになっています。
このようになる前に対策をしていれば、入院する必要もなかったかもしれません。
散歩中のしびれがリハビリで気にならなくなった60代女性(Sさん)
Sさんは、朝の日課の散歩の最中に初めてふとももの裏にしびれを感じました。
それ以降、2、3日に一度くらいの頻度で散歩中に数回しびれを感じることがあり、腰の痛みは全くないものの常に腰の重さは感じていました。
初めてしびれを感じた日から約4ヶ月後、散歩の途中にしびれが強くなって歩くのも辛くなり、なんとか自宅に戻ってそのまま病院を受診したところ、脊柱管狭窄症と診断されました。
それから筋トレやストレッチといったリハビリが始まり、少しずつ行うことで症状は軽くなっていきました。
リハビリを始めてから6ヶ月で、しびれは大体気にならなくなりました。
今でも日課の散歩は続けていますが、前以上に腰には気を使いながら生活するようになったとのことです。
保存療法・薬物療法で歩けるようになった筆者の父親の例
筆者の父親は脊柱管狭窄症で歩行障害を生じ、杖の使用をすすめてしばらく使っていました。
整形外科から脊柱管狭窄症の改善薬を処方してもらい、最近は杖を使用せず、ある程度の距離は歩けるようになっています。
長時間無理をすると症状が強く出ることはありますが、無理をしなければ日常生活は大丈夫なようです。
保存的な治療・薬物療法が効果のあった例といえます。
手術が必要になるケースと判断の目安
脊柱管狭窄症は、うまくコントロールすれば手術を回避して生活を続けられることも多いですが、リハビリではどうしようもない場合もあり、その場合は手術になることもあります。
筆者が担当した例では、手術によって歩行状態が改善し日常生活ができるようになった方も多くいます。
一方で、手術の決断が遅かったためか「しびれは残っている」とおっしゃる方も少なくありませんでした。
症状が軽い場合は運動療法などリハビリの効果が期待できますので、まず病院でのリハビリを一度試してみることをおすすめします。
症状が進行したり強かったりする場合は、手術という選択肢についても主治医と相談してください。
手術が必要かどうか、いつ行うべきかは医師が判断することですので、本人だけでなく家族も脊柱管狭窄症についての知識を深めておくと、相談がしやすくなります。
手術にかかる費用については脊柱管狭窄症の手術費用の記事を参考にしてください。
運動をやめてすぐ病院に行くべきサイン
次のような症状がある場合は、リハビリや自主的な運動をいったん中止し、すぐに医療機関を受診してください。
- 足のしびれや脱力(力が入らない感じ)が進んでいく
- 排尿・排便の異常(尿が出にくい、漏れる、便のコントロールが効かないなど、馬尾症状と呼ばれるもの)
- 安静にしていても続く痛み
- 発熱を伴う腰や足の痛み
- 転倒した、または転倒しそうになることが増えた
脊柱管狭窄症が重度になると、神経を強く圧迫して強い歩行障害や排泄障害を起こすこともあります。
これらのサインがあれば、自己判断で運動を続けずに医師へ相談してください。
よくある質問
Q. 脊柱管狭窄症のリハビリでは何をするのですか?
姿勢のくせ・筋力・柔軟性・歩き方などを評価し、原因に合わせたストレッチや筋トレ、腰に負担をかけない動作の練習、歩行補助具の選定と調整、日常生活の指導を行います。理学療法士がマッサージのような施術をするだけのものではなく、自分で続ける体操や運動を身につける「自己管理」が中心です。
Q. リハビリで効果を感じない場合はどうすればよいですか?
運動が正確にできていない、回数や負荷量が多すぎる・足りない、できているつもりになっている、といった可能性があるので、すぐに「効果がない」とは言い切れません。専門家に内容を確認してもらい、それでも悪化するようなら主治医と次の方法(手術など)を相談してください。
Q. リハビリと手術、どちらを選ぶべきですか?
症状が軽ければ運動療法などリハビリの効果が期待できるので、まず病院でのリハビリを試すことをおすすめします。症状が進行している、または強い場合は手術の検討も選択肢になります。どちらが適切かは医師の判断になりますので、主治医に相談してください。
まとめ
- 脊柱管狭窄症は、手術をしなくてもリハビリで症状の緩和が期待できる人が多い
- リハビリは対症療法と違い、姿勢・筋力・柔軟性・歩き方を評価して原因に合わせた対策を組む
- ゴールは自己管理。自分で続ける運動や動作の工夫で、長期的に悪化を防ぐ
- 症状緩和を助ける要素は「姿勢・腹筋・背筋・柔軟性・下肢の血流」の5つ(種目の手順は運動・ストレッチの記事へ)
- 荷物は腰を曲げず膝を使って持ち上げる。歩くときは腕で上半身を支え、少し前かがみにすると楽になることがある
- 流行の体操は基本の5要素を踏まえたうえで試し、合うものを取捨選択する
- しびれや脱力の進行、排尿排便の異常、安静時の痛み、発熱、転倒があればすぐ受診。手術の要否は医師が判断する
参考文献
- 日本整形外科学会監修『腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2021』
※この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療を行うものではありません。症状が続く場合や不安がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
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